fixed-totop
line

解雇とは?日本の労働法制の特徴、解雇の全体像を弁護士がわかりやすく解説

1 解雇規制の異常なハードル?!

「日本は解雇規制が厳しい」

経営者のみなさまにおかれましても、このような認識がおありなのではないでしょうか。法律相談を受けていても、最近では感覚的にこの程度の認識はお持ちの方が多いように思います。
そもそも、会社に迎え入れた従業員を解雇しなければならないというのは、従業員を大切にしている経営者にとって、非常につらいことだと思います。しかし、従業員の幸せを思えばこそ、別々の道を進む方がよいという場合もあるでしょう。
今回は、「解雇」についての全体像をつかみ、さらに、解雇についての詳しい内容を見ていきたいと思います。

2 解雇規制も含めた、日本の労働法制の特徴

日本の高度成長を支えたのは、雇用保障・賃金保障を核とする、終身雇用の慣行です。大家族的な経営で、1度雇用したら最後まで会社が面倒を見てくれる、そんな安心感のもとで、労働者も懸命に働いて、見事に戦後復興を遂げました。労働法制も、そんな背景を踏まえて形成されてきたと言ってよいのではないかと思います。
1度雇ったら、最後まで面倒を見る。そのような発想からは、厳格な解雇規制が導かれます。日本の法制では解雇はほぼ不可能という方もおられるくらいです。いわゆる出口の規制は相当に厳しいのは間違いありません。
しかし、1度雇ったら一生関わり続けるくらいの気持ちでのぞむ必要があるからこそ、入口段階、採用段階では、会社に採用の自由が認められています。会社はこの武器を使わない手はありませんから、しっかり採用希望者を吟味して、価値観はあうのか、実績は、能力は、ポテンシャルは…と、会社の求める人財かどうかをふるいにかけることができるのです。とはいえ、特に昨今は人手不足が深刻で、資金力・競争力の観点からも、採用の難しさが際立っています。
いくら採用に気を遣っても、「働いてみないとわからない」という面はどうしてもあるでしょう。採用した結果、ミスマッチが起こってしまったら。容易に解雇は出来ませんし、私個人としては簡単に解雇を考えるべきでもないと思っています。日本の法制では、調整弁として、会社に広い人事権を与えており、いわゆる適材適所で、その方のパフォーマンスが最大限発揮できる現場・部署に配置する裁量があります。また、日本の労働法制の極めて特徴的な内容の1つとして、ワークルールを一方的に(注:過半数代表者又は過半数組合の意見聴取は必要)、就業規則の変更という形で変えられるという点が挙げられます。しかし、多くの会社では、攻めというより防御に関する就業規則の整備・検討が後回しになってしまっているような印象を受け、もったいないなぁと感じることもあります。

3 本来の在り方

本来は、安易に解雇を考えるのではなく、上述のような日本の労働法制を理解して、ミスマッチの起きない慎重な採用の在り方を検討したり、対象の方をよくよく観察して、その強みが活かせるような部署で活躍してもらったり、就業規則(ワークルール)の整備も含めた「なりたい理想の会社像」(ビジョン)を共有した上での価値観教育を通して社員の成長を見守るなど、さまざまな手段を講じていくべきだと思います。
しかし、冒頭に述べたとおり、場合によっては、会社と社員がきれいにお別れをして、社員が別の道を進むことがその社員にとっての幸せということもあるでしょう。その場合も、「解雇」となると、法規制の壁がございますので、あらかじめ経営者のみなさまにおいて、その制度の概要を把握しておくことには意味があることだと考えます。

4 労働契約が終了する場合

そもそも、労働契約や終了する場面は、大きく3つにわかれます。

1つ目は、「労働者が」一方的に労働契約を終了させるという意思表示をする場合。自主退職や辞職といわれるものです。この場合、民法627条に規定があり、 当事者が労働契約の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができるとされています。この場合、労働契約の解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了します。
2つ目は、「労働者と使用者が」合意により労働関係を終了させる場合です。この場合、使用者と労働者の力関係などを背景に、真意に基づく合意なのかという点が問題になることもあります。

3つ目は、「使用者が」一方的に労働契約を終了させるという意思表示をする場合。これが解雇です。解雇権濫用法理が適用されるのはこの「解雇」についてです。

会社(使用者)には、厳格な解雇規制で無効になるリスクがあり、一方で労働者も経歴に「解雇」というキズがついてしまうことを避けるニーズもあります。そのため、会社が退職勧奨(退職しませんか?という任意のすすめ)をしたり、あえて労働者側から任意の自主退職(辞職)という形をとるなどすることも多いです。通常の事案では、円満に話し合いによる解決が行われているようには思います。しかし、ひとたび紛争化してしまうと、労働問題の場合、人間関係の濃い者同士の争いであるがゆえ、ドロ沼化してしまうことも少なくありません。

4 解雇とは

繰り返しになりますが、解雇とは、従業員の同意なく、会社(使用者)側からの一方的な通知により雇用契約を終了させることをいいます。

大きく分けて普通解雇と懲戒解雇があります。

ただし、普通解雇においても、労働者の事情によるものと、会社の事情によるものがあり、これらを踏まえ、①普通解雇(労働者の事情による)、②整理解雇(会社の事情による)、③懲戒解雇、と説明されることも多いです。
解雇については、労働基準法により解雇予告義務、解雇制限等の規制が設けられています。判例法理が積み重ねられ法制化された労働契約法により、解雇権濫用法理が規定されています。

5 普通解雇(労働者事情による)

従業員の無断欠勤、無許可欠勤、能力不足、成績不良、協調性がない、病気や怪我による就業不能…などの理由で行われる解雇です。
労働契約というのは、「働いてもらう」「その対価として賃金を払う」というのをコアとする契約です。しかし、無断欠勤が続く事例などはわかりやすいと思いますが、「働いてもらう」という部分の契約上の義務が果たされていない状態なわけです。通常、このような契約違反があれば、契約は解除(解約)するということになりますが、労働契約の場合、これが「解雇」なのだと理解していただければよいのではないかと思います。
ただし、労働契約の場合、会社(使用者)と従業員(労働者)のパワーバランスや、従業員にとっては生活の糧、生活の基盤という側面があることなどを踏まえる必要があるため、一般の契約とは異なる規制があると理解してください。
労働契約法上、解雇には、客観的合理性と、社会通念上の相当性が求められます。これが、解雇権濫用法理と呼ばれるものです。

6 整理解雇

整理解雇は、会社の経営状況の悪化など、会社側の都合で行う解雇です。
いわゆる「リストラ」です。
契約として労働者を雇用したのに、会社(使用者)の方からこれをふいにするような行為なのですから、当然、規制は厳しいです。
いわゆる整理解雇4要件として、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続の妥当性、といった要件充足が求められます。(なお、要件なのか要素なのかの争いがあります。)
感覚的には、相当に厳しい規制という認識でしたが、新型コロナウイルス感染症問題が深刻であったことからか、コロナ禍以降にちらほら解雇有効とされた事案もあったようです。

7 懲戒解雇

従業員の「規律違反」を解雇事由として、「規律違反」に対する制裁として行われる解雇です。
普通解雇が「労働契約したんだからちゃんと働いてよ。働かないなら契約は解約ね」というものであったのに対し、懲戒解雇は「会社のルールは守ってよ。秩序を乱したことに対してはペナルティを課しますね」というものであると理解していただければよいと思います。

具体的には、業務上横領など業務に関する不正行為、転勤の拒否など重要な業務命令の拒否、セクハラ、パワハラ、経歴詐称…などなどです。
懲戒解雇の規制は、普通解雇の規制とはまた違ったもので、労働法制上の規制というより、「ペナルティを与える」という点で、刑事手続にも類似した厳格な規制がされています。
会社が恣意的・濫用的にペナルティを課すことを防止するためにも、懲戒事由については明確に就業規則に記載して事前にアナウンスしておかなければなりません。
また、就業規則に書かれた手続(たとえば、「懲戒をする場合は懲戒で審議する」「懲戒をする場合は事前に従業員代表者あるいは労働組合と協議する」などといった規定がある場合はこの手続)を行わないといけませんし、規定がなくとも告知と聴聞(対象者の弁明の機会の付与)などは重要とされています。
ペナルティなので勢いやり過ぎてしまう場合もあり得ますが、軽微な違反行為において、戒告、減給、出勤停止、懲戒解雇などいろいろと種類があるなかでいきなり解雇するなど、やり過ぎてしまった場合も無効になり得ます。
懲戒解雇は、ペナルティ、「罰」なわけですから、労働者からしたら不名誉極まりないわけで、労働者は感情的になりやすく、紛争化しやすいものだと言わざるを得ません。かなり気を付けて対応しなければなりません。

8 不当解雇になってしまったら

冒頭に述べたとおり、日本の解雇規制は厳しいです。
では、解雇が無効になってしまったら、どうなるのでしょうか。どんなリスクがあるのでしょうか。

解雇が無効だと考える労働者は、「解雇が無効だから復職させろ」(①)ということを主張します。また、「会社の不当解雇で、本当は働いて給料がもらえたのに、その機会を失った。給料に相当するお金を払え」(②)ということを主張します。訴訟に敗訴すると、①復職と②バックペイが生じるというリスクがあるのです。
このバックペイですが、たとえば訴訟にまで発展する場合など、数か月で終わるなどということはほぼありません。1年、2年、3年…とかかることもあります。そうなると、年収500万円の方であれば、500万円、1000万円、1500万円…というバックペイが生じかねないわけです。おそろしいですね。
当該従業員を抱えているリスク・コストと、従業員を解雇した際の紛争コストを比較して、それでも、経営判断として、解雇をするという方もおられるようですが、弁護士としては、不当解雇と言われるリスクをおかして解雇をすすめることは容易にできません。
このような場合に、退職勧奨が重要になってくるのは、以上のような理由からです。

9 解雇予告手当

会社が事前に予告せずに解雇を行う場合には、法律上、原則として30日分の賃金の支払いが必要です。
現在は、インターネットの普及で、こうした情報も、一般の方でもよくご存じです。
落ちのないように対応していきましょう。

10 会社都合退職金

退職金について、自己都合の退職か、会社都合の退職かで金額が異なる制度を設けている会社があります。
普通解雇の場合は原則として会社都合と扱われることが一般的です。
そのため、自己都合退職よりも退職金の額が大きくなることがあります。
就業規則の内容をチェックし、そのような制度が設けられている場合は、きちんと検討しなければなりません。

11 解雇が禁止される場合

以下の場合は、解雇は許されません。

  • 従業員が業務に起因する病気やけがで治療のために休業している期間とその後30日間の解雇の禁止(労働基準法19条)
  • 従業員の産休中(産前6週間と産後8週間)と産休明け後30日間の解雇の禁止(労働基準法19条)
  • 女性従業員の妊娠・出産を理由とする解雇の禁止(男女雇用機会均等法第9条2項)
  • 育児休業制度を利用したことを理由とする解雇の禁止(育児介護休業法第10条)
  • 介護休業制度を利用したことを理由とする解雇の禁止(育児介護休業法第16条)
  • 組合に加入したことあるいは組合活動を理由とする解雇の禁止(労働組合法第7条)
  • 労働基準監督署への申告を理由とする解雇の禁止(労働基準法第104条2項)
  • 公益通報をしたことを理由とする公益通報者の解雇(公益通報者保護法3条、4条)

12 助成金への影響

従業員を解雇した場合、助成金によっては、一定期間申請ができなくなることがあります。
たとえば、トライアル雇用助成金は、さかのぼって6か月間の間に会社都合の解雇をした場合は申請できません。
自社で助成金の申請を予定している場合は、助成金の支給要件の中に、「一定期間内に事業主都合の解雇がないこと」が要件となっていないかの確認が必要です。

13 まとめ


一般の契約の解除にはない特別な法的な規制があり、解雇を正しく理解することは容易ではないと思います。そのようななか、経営者にとって、解雇規制の厳しさは、非常に重みがある事項だと思ます。専門家に相談しながら、慎重に検討すべき事項です。
そもそも、解雇をしなければならない状態を招いたのは、経営者が雇用したからという側面も否定できません。会社に与えられた採用の自由は、会社にとっての強い武器です。将来の解雇紛争を防止するという意味では、採用活動を見直したり、社員教育の在り方を見直したりすることも含め、自社を再度振り返ってみてください。

事務所紹介

豊前総合法律事務所 

代表弁護士 西村幸太郎

当事務所では、使用者側(経営者側)の企業法務に注力して業務を行っております。労務トラブル、契約書作成・リーガルチェック、債権回収、クレーム対応、不動産に関するトラブル等でお悩みの方は、当事務所までご相談ください。

当事務所の主なご支援エリア(当事務所にアクセスし易く、身近にご支援ができる地域を記載しております)
豊前市、築上町、吉富町、上毛町、中津市、宇佐市、豊後高田市、行橋市、苅田町、みやこ町