2024年問題とは?弁護士が具体的な影響から対応策まで解説!
2024年問題とは
ひとことで言えば、ドライバー等にも時間外労働上限規制がかかることにより、物流業界に生じる問題の総称です。
背景、経過
2018年(平成30年)にいわゆる働き方関連法が公布され、そのなかで、労働基準法の時間外労働時間が上限規制となり、その上限時間数が明らかとなりました。それまで、特別条項付き36協定を締結することで、実質的に、時間外労働は青天井で認められてしまっていました。
これに対応するため、中小企業も働き方関連法で2020年(令和2年)度より、一般労働者は時間外労働上限規制が適用されました。しかし、自動車運転者に対しては、5年間の猶予期間が設けられています。日常的に長時間労働が行われている職業であり、その対策を講じるためです。
そして、いよいよ、2020年(令和2年)の時間外労働上限規制の猶予措置が終わり、自動車運転者に対する適用が2024年(令和6年)度より開始されます。それに伴う物流業界に生じるさまざまな問題を「2024年問題」というわけです。
時間外労働の上限が1年960時間まで(目安として1か月80時間になります。)で、その上限を超える時間外労働が発生すると法違反となり是正勧告となります。36協定で届出されている時間が上限規制の時間外労働時間より短い場合は、その届出された時間が上限となるので注意が必要です。
さらに、しばらくの間、中小企業者が猶予されていた、時間外労働60時間超の割増賃金率が、2023年(令和5年)4月から、大企業と同じく、25%→50%となっています。
ドライバーの現状
全業種での年間平均労働時間は約2100時間。
これに対し、全日本トラック協会の2020年(令和2年)の運転者の平均労働時間は、大型車で2532時間、中型車で2484時間。
1か月平均すると、全業種と比較して約40時間あまり超過しています。
トラック運送業では、平均的に仕事があるわけではなく、お中元・お歳暮時期(7~8月、12月)や、引っ越し時期(3月など)等の繁忙期には、時間外労働が80時間までに収まることは非常に難しいというのが現状のようです。
企業不振による解雇や良い環境を求めての転職の増加により、残された少ない人数で同じ仕事量をこなすこととなるため、より一層長時間労働に拍車がかかっています。
会社や従業員への直接の影響
ドライバーという職業は、日本のライフラインを司る必要不可欠で意義深い職業だと思います。しかし、そうでありながら、上述のとおり、長時間労働が慢性化されているのも現状であるため、時間外労働上限規制の導入に対策を講じる必要があります。
ドライバーのなかには、(それがよいかどうかは別として、)残業代をあてにして生活している方もおられ、ドライバーの収入減になるのではと指摘されています。家族をもって家を建てるのも難しいといった声も聞きます。ドライバーの平均年齢も上がってきているようです。
ただでさえ、ドライバーの人手不足が叫ばれており、残業代がない=賃金が実質的に下がるとして、さらに人手が確保しにくくなる可能性もあります。
もちろん、採用に当たって、会社も、誰でもいいというわけではないと思います。自社の経営理念に合致する優秀な人材を確保したいと思うでしょうが、最近は、ドライバー自身も業界で人材が不足していることを承知しているため、乗車拒否や配車拒否なども目立つようになってきたようです。
業界全体への影響
懸念されるのは、「物流の停滞」です。
近年ECサイトの登場により、物流量はむしろ増加しています。それにもかかわらず、これを運ぶドライバーが不足し、ドライバーも労働時間に制限がある。特に長距離ドライバーについては、今のままのやり方では物理的に法定の労働時間を守れない場合もあり、法を守ろうとすると、仕事が請けられないという場面も出てくるかもしれません。
さらに、「売上・利益の現象」も懸念されます。
輸送できる荷物が限られ、請けられる仕事が限られ、売上が下がるとともに、時間外労働60時間超の割増賃金率の上昇などによりコストが上がるため、利益も圧迫されます。
こうした会社経営が苦しくなり、庸車と呼ばれる外注の仕事形態をとっているところは、連鎖して関連会社全体で苦しくなっていくかもしれないといった、負の連鎖が生じる可能性もあります。
対応策
既に述べたとおり、運送業は、日本のライフラインを司る、必要不可欠の、素晴らしい仕事です。また、「カッコイイ」トラックに乗って物を運ぶことに喜びを感じる、いろんなところに行くことができるといった魅力に惹かれて仕事をしている人も多いのではないでしょうか。少子化の現代では一定程度やむを得ないのかもしれませんが、人手不足といわれる現状は残念です。
しかし、これからの未来を担う若者を採用して会社が、社会が発展していくには、今回のような「労働時間」について考えていく必要もあるのかもしれません。
これからの社会を支えていく、いわゆるZ世代(概ね1997年(平成9年)~2010年(平成22年)ごろに生まれた若者)は、生まれたときからインターネットやIT技術のなかで育ってきた世代です。Z世代と呼ばれる若者が働きたい職場は、仕事よりもプライベートを大切に働けるものという調査結果が出ています。調査結果によれば、
・職場の雰囲気が良く
・福利厚生などの給与面以外の待遇が良く
・会社に将来性があり
・年収が高い
といったことを重視するようです。
こうした世代の方々に、この業界が素敵でカッコよく、ドライバーをしてみたいという気持ちになるためには、どうしたらよいでしょうか。人の定着する良い労働環境の会社、居心地のよい会社をどうやって創っていったらよいでしょうか。
今回の法改正は、このような会社をつくっていくきっかけとして、最初の一歩、労働環境の主軸をなす労働時間の把握を師、正しい時間管理を行うことで労働環境を改善することが重要だというメッセージのようにも思われます。
まずは、正しい時間管理を行うための現状の把握が必要です。法違反の有無は関係なく、従業員1人ひとりの正しい労働時間の把握に努めましょう。労働時間は、契約等の定めで決まるのではなく、客観的に、労働者が使用者の指揮命令下にある状態か否かで認定します。便宜上の記録ではなく、実態に即した把握が必要です。いまは、さまざまなITツールも登場しており、ITツールを利用した効率化も検討に値するでしょう。
次に、そのなかで、本当に残業が必要だったかなど、詳細に管理を行うことで、時間短縮につながり、やりがいのある仕事ができる糸口になるかもしれません。
会社をデザインする就業規則(ワークルール)の策定も一考に値します。始業終業の時間をいつにして、どうやって労働時間管理をして、どのようなタイミングでどんな休日を付与して、どんな福利厚生を設計するのかなど、会社をデザインしていく上で、就業規則の再検討は、非常に大変ですが有用だと思います。就業規則は、記載しなければならないことが一定程度決まっていますが、それは、会社をデザインするうえで「ここに気を付けた方がいいですよ」「ここはよく考えた方が良い会社になりますよ」というチェックリストになっていると考えることができます。ぜひ、「ねばならない」でやるものではなく、「積極的に会社を良くするため、デザインするため」就業規則(ワークルール)の整備をしていけると、ワクワクするようなプラニングの時間にすることも可能なのではないかと思います。
そのなかでは、たとえば、運送業でよくお見掛けします「固定残業代制」などの検討も必要になるかもしれません。この論点については、長らく多くの議論があり、会社側にとっては無効のリスクもあるものですので、導入・運用については慎重な検討が必要と思います。こういった点も専門家と一緒に検討していけるとよいのではないかと思います。
継続的に会社を良くするためのお付き合いをするにあたっては、顧問契約がおすすめです。就業規則(ワークルール)を一緒に考えて策定していくこともできます。ご興味がおありの会社様は、ぜひとも1度お声がけください。
事務所紹介
豊前総合法律事務所
代表弁護士 西村幸太郎
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